第1回 京都短編ミステリー新人賞では、島田荘司、山本巧次、望月麻衣の三氏による最終選考が行われました。
ここに、各審査員から寄せられた選評を掲載します。
島田荘司
大賞『虫めづる姫君』
かつて、にんじんくらぶが制作した東宝映画「怪談」に、京の廃屋に住まう妻の亡霊に会いに戻る若い武士の話があった。「黒髪」、ラフカディオ・ハーンの原題は「和解」。この美しい恐怖夜話や、東山・鳥辺野の伝承「幽霊、子育て飴」などが、京の短い話の公式を作った感がある。
本作もまた、ホラーめいた雰囲気を持ち、千年という時間と古びた都の気配を独自の方法で醸し出している。古典や古語に通じた書き手の教養も感じられ、平安京の空気を巧みに漂わせて味わい深く読ませる。都市文芸としても、京ミス第一回受賞作にふさわしい風格を備えている。
謎が小さいという意見もあったが、私は必ずしもそうは思わない。清潔な貴族女性のぎょっとさせる猟奇的な行為が、物語の奥まったところで衝撃的な光景として現れる構造はよく計算されている。
海外賞『博物館の聖遺物』
スペイン人による作品であるが、本格ミステリーの構造を果敢に持ち込み、欧州人らしい叙述トリックが結末に好ましい驚きをもたらしている。
ただし中心となる殺人装置の説明には疑問点が残り、この点が改善されればさらに優れた作品となる可能性を感じた。
奨励賞『おもちゃの王様』
この作品には得難い資質を感じた。登場人物の無償の善意が悲劇へとつながる構図は、現実社会の理不尽さを思わせる。こうした発想を生み出す作者の感性には強い興味を抱いた。
中高生賞『ABCの色彩』
最初に読んで高い印象を得た作品である。中学生が書いたとは思えないほど読みやすく、発想も良い。ただし短編としての余韻や結末の工夫が加われば、さらに大きく成長する書き手だろう。
山本巧次
記念すべき第1回京都短編ミステリー新人賞の審査員として参加できたことを光栄に思います。
最終候補に残った作品はいずれもレベルが高く、海外の方の作品も京都の歴史や文化をよく理解して書かれていることに感心しました。
ただ、ミステリーとして優れていても、「京都」という舞台の必然性が薄い作品も見受けられました。本賞が京都ミステリーの賞である以上、今後はその点をさらに生かした作品を期待しています。
大賞『虫めづる姫君』
平安朝の空気感が見事に表現され、冒頭から読者を引き込みます。怪異譚としての雰囲気を持ちながら、華やかな平安京の裏側にある重苦しさが印象的です。文章の巧みさは群を抜いており、審査員一致で大賞に選ばれたのも納得の完成度でした。
奨励賞『おもちゃの王様』
作中作と叙述トリックという難易度の高い構成を持ちながら、心理劇としての緊張感が卓越しています。
海外賞『博物館の聖遺物』
日本の事情にも詳しく、論理構成もしっかりした作品でした。
中高生賞『ABCの色彩』
テンポのよい会話と軽快な文体が魅力で、中学生とは思えない完成度でした。
ビジュアライズ賞『京都異界異聞』
人が消えた京都というディストピア的な設定が印象的で、映像化した際のインパクトを強く感じさせる作品でした。
望月麻衣
ノミネート作品はいずれもレベルが高く、選考委員であることを忘れ、一読者として楽しく拝読しました。
大賞『虫めづる姫君』
古典『堤中納言物語』をモチーフにしながら独自の視点で再構築された作品で、文学的完成度と独自性が際立っています。
奨励賞『おもちゃの王様』
犯罪者と作家の心理戦を静かな筆致で描き出し、人間の暗部に迫る描写が印象的でした。
海外賞『博物館の聖遺物』
博物館という閉ざされた空間と古典的トリックを組み合わせた意欲的なミステリーでした。
中高生賞『ABCの色彩』
軽やかな語り口と魅力的なキャラクターが印象に残る作品でした。
ビジュアライズ賞『京都異界異聞』
京都という舞台を活かした独自の世界観が魅力で、エンターテインメント性の高い作品でした。